大阪大学 石原研究室

ミトコンドリアのダイナミクスの研究をしています

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卵子のミトコンドリアのダイナミクス

卵子におけるミトコンドリア分裂の意義の解明

研究の背景
 ミトコンドリアは生体内でエネルギーを作る細胞小器官であり、生活習慣病や神経変性疾患などにも関与することから、近年活発に研究が進められています。このミトコンドリアは細菌の共生を起源とするオルガネラであり、細胞内で活発に動き、融合と分裂を繰り返しています。しかし、生体内におけるミトコンドリア変形の意義はまだあまり理解されていません。
 ミトコンドリアは卵子の老化にも関与していると考えられていますが、卵子のミトコンドリアの形態を制御する仕組みはほとんど知られていませんでした。そこで本研究では卵子のミトコンドリアに注目して研究を行いました。

研究で得られた知見
 今回、遺伝子改変技術を用いて、卵子のミトコンドリアを人為的に変形させたマウスを構築し、解 析しました。その結果、下記の結果を得ました。
(1) 卵子のミトコンドリアが分裂できないと、ミトコンドリアを含むさまざまな細胞小器官が集まった凝集構造を作ることがわかりました。(図1、中央)
(2) 老化したマウスの卵子のミトコンドリアを観察したところ、若い卵子と比較してミトコンドリア分裂が弱くなっており、上記の遺伝子欠損マウスと類似した凝集構造が観察されました。(図1、右)
(3) この凝集構造を持つ卵子は、卵子からの分泌(シグナルの発信)が弱まっており、卵子の成熟を支える周辺環境を十分に活性化できなくなっていました。その結果、卵子の成熟が途中で停止し、不妊となることがわかりました。(図2)
 これらの結果から、卵子が健康に維持され正常に発育するには、ミトコンドリアが適切に変形する必要があることが明らかになりました。

oocyte1

図1、マウス卵子のミトコンドリアの顕微鏡像(実際の観察データ)

oocyte2

 図2、本研究の成果を説明するモデル図

 今回ミトコンドリアの形に注目する事で、卵子の老化に関わる新しい分子機構を見出しました。今後ミトコンドリアの形に着目した研究が進むことで、生殖医療への応用(卵子の質を評価するための検査手法、あるいは質を改善させる治療法)に繋がることが期待されます。
 エネルギー生産工場として生物に必須な機能を持つミトコンドリアですが、組織によってさらに特化した機能を持つことがわかりつつあります。今後、分化組織や病態に独特なミトコンドリアの特性を見出すことで、生物の成り立ちの基本原理の理解を進め、また新しい治療標的の発見に貢献することも期待されます。

“Mitochondrial fission factor Drp1 maintains oocyte quality via dynamic rearrangement of multiple organelles”
(ミトコンドリア分裂因子Drp1は細胞小器官のダイナミックな再編成を通して卵子の質を維持する)
Osamu Udagawa, Takaya Ishihara, Maki Maeda, Yui Matsunaga, Satoshi Tsukamoto, Natsuko Kawano, Kenji Miyado, Hiroshi Shitara, Sadaki Yokota, Masatoshi Nomura, Katsuyoshi Mihara, Noboru Mizushima, and Naotada Ishihara
Current Biology 24: 2451-2458 (2014) リンク

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