大阪大学 石原研究室

ミトコンドリアのダイナミクスの研究をしています

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体内でのミトコンドリア分裂の役割

初期発生と神経形成におけるミトコンドリア分裂の意義 

ミトコンドリアは細胞内のほとんどのエネルギーを生産する細胞内の発電所として必須の機能を持っています。同時に、ミトコンドリアはアポトーシス・細胞内カルシウム制御・酸化ストレスなどの細胞制御経路を介して、代謝・神経変性など多様な高次生命機能や病態に関与していることから現在幅広い分野から注目を集めるようになっています。

ミトコンドリアは酸素呼吸細菌の共生を起源とすると考えられており、細胞の中で融合と分裂を繰り返しながらダイナミックにその形態を変化させています。ほとんどの生物のミトコンドリアは共生前に持っていたと思われる細菌型の分裂装置を失っており、現在はDrp1(ダイナミン様蛋白質)に依存して分裂していることがわかっています。

今回、私達は世界で初めてミトコンドリア分裂因子を欠損したマウスを構築しました。その解析から、ミトコンドリアの分裂は胎児期における発生、特に神経系の発達に必須な機能を持っていることが明らかになりました。

ミトコンドリア分裂の生理機能のモデル

研究成果の概要 (ミトコンドリア分裂の生理機能のモデル)

左図:正常の個体ではミトコンドリアは神経細胞内で分散して分布しており、またシナプスを介した神経ネットワークが形成されます。

右図:ミトコンドリア分裂不全の個体では、個々のミトコンドリアが非常に大きくなっており、神経突起の中に進入したミトコンドリアはあまり見られません。その結果、シナプスが形成されず、神経細胞死が引き起こされると考えられます。

[詳細な解説]

結果1:ミトコンドリアの分裂はマウス初期発生に必須である

Drp1全身欠損マウスは受精後の胎児期発生の過程で致死となります。つまりミトコンドリアの分裂はマウス初期発生に必須であることが明らかになりました。

結果2:ミトコンドリアの分裂はミトコンドリア活性に必須ではない

Drp1を欠損したマウス胎児でも、ミトコンドリア呼吸活性は維持されていました。またDrp1を欠損したマウス胎児繊維芽細胞は、正常細胞と同様の増殖能を持っていました。つまり、ミトコンドリアの分裂は細胞の生存やエネルギー生産には必須でないことが明らかになりました。

結果3:ミトコンドリアの分裂は神経形成に必須である

Drp1を欠損したマウス胎児の脳で神経細胞死が観察されました。神経細胞のみでDrp1を欠損したマウスは生後すぐ死亡しますが、このとき脳の発達障害と神経細胞死が見られます。
さらに、神経細胞を単離・培養し、また分化させる実験を行いました。ミトコンドリアが分裂できないとミトコンドリアがつながって大きくなり、細長い神経突起の中を運ばれていくことができなくなりました。その結果、神経間のシナプスが形成されず神経細胞死が誘導されることが明らかになりました。

 

「ミトコンドリアの分裂は胎児期発生と神経形成に不可欠である」

N. Ishihara, M. Nomura, A. Jofuku, H. Kato, S. O. Suzuki, K. Masuda, H. Otera, Y. Nakanishi, I. Nonaka, Y-i. Goto, N. Taguchi, H. Morinaga, M. Maeda, R. Takayanagi, S. Yokota, and K. Mihara.

Mitochondrial fission factor Drp1 is essential for embryonic development and synapse formation in mice
Nature Cell Biology, 11: 958-966 (2009)

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